本稿では、ZEH(ゼッチ)住宅の要点についてわかりやすく解説します。「省エネ」かつ「夏も冬も快適に過ごせる家」に興味がある方は、最後までご覧ください。
最近はいろんな高性能住宅があって「意味がわからない」と感じている方が少なくないでしょう。長期優良住宅?認定低炭素住宅?まだ漢字ならなんとなく意味がわかりますが、ZEHは「読み方すらわからない!」と思わず声が出てしまいそうです。
そんなZEHの普及を、国が本気で進めています。それは、いったいなぜなのか?本稿でZEHの基礎知識を身につけ、家づくりの参考にしてみませんか?
ZEH(ゼッチ)とは?
まずは「ZEH」の意味からご紹介しましょう。じつは、ZEHにはいろんな種類がありますので、その違いや、おもな認定基準もご紹介します。
ZEHの定義・概要
ZEHは「Net Zero Energy House (ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略です。定義は、経済産業省(資源エネルギー庁)のホームページに書いてありますので、引用します。
「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」
イマイチよくわからないので、分解して少し意訳してみましょう。どうやら、以下の5つがZEHの要素になっているようです。
- 外気に接する外壁・屋根・窓等の断熱性能等を大幅に向上させる
- エネルギー効率が高い省エネ設備を導入する
- 室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現する
- 再生可能エネルギー(太陽光発電等)を導入する
- 年間の一次エネルギー消費量の収支はゼロを目指す
要するにZEHがどんな住宅なのか、大ざっぱに言うと「家で使うエネルギー量 ≦ 家でつくるエネルギー量」かつ「快適な温度環境で過ごせる家」ということです。これを実現するためには「省エネと創エネが不可欠」だと上述の定義には書かれているのです。
ここまでに聞き慣れない言葉が3つ出てきましたので、説明しておきましょう。まずは「外皮」から。住宅における外皮は「外気に接する外壁・屋根・窓・ドア・床・天井など」を指します。
つづいて「再生可能エネルギー」。これは、エネルギーとして永続的に利用でき、かつ政令で定められているものを指します。具体的には、以下のものが該当します。
- 太陽光
- 風力
- 水力
- 地熱
- 太陽熱
- 大気中や自然界に存在する熱
- バイオマス
最後に「一次エネルギー」。これは化石燃料・原子力燃料・天然ガスなど、加工されていないエネルギーです。私たちが日常使っている二次エネルギー(電力・ガス・灯油など)の元になるもの、と考えていただくといいでしょう。
ではなぜ、二次エネルギーではなく「年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすること」を目指すのでしょうか。その理由は、二次エネルギーの計測単位がバラバラだからです。
- 電気の単位:kWh
- ガスの単位:立方メートル
- 灯油の単位:リットル
いっぽう、一次エネルギーは「J (ジュール)」で表します。こちらのほうが評価しやすい、ということなのです。
ZEHの普及が推進されている背景
さて、国はZEHの普及を推進していますが、それはなぜでしょうか。
日本は、2015年に開催されたCOP21(地球温暖化対策について話し合う国際的な会議)で温室効果ガスの削減目標を「2030年までに、2013年比で26%削減」としました。これを実現するには家庭部門からのCO2排出量を4割削減する必要があり、その施策のひとつがZEHなのです。
このZEHについては「第5次エネルギー基本計画」で目標を「2020年までにハウスメーカー等が新築する注文戸建住宅の半数以上で、2030年までに新築住宅の平均でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の実現を目指す」としています。
ZEHの条件(仕様・基準)
先述のとおり、ZEHは「高い断熱性を持った外皮」と「高効率な省エネ設備」を備え「再生可能エネルギーの導入」により「年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロ」の住宅です。
このZEHは、以下の4つの要件を満たしている必要があります。
- ZEH強化外皮基準を満たす
- 基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減(再生可能エネルギーを除く)
- 再生可能エネルギーを導入(容量不問)
- 再生可能エネルギー等を加えて、基準一次エネルギー消費量から100%以上の一次エネルギー消費量削減
理解が難しい基準ですので、補足説明しておきましょう。
ZEH強化外皮基準
ZEH強化外皮基準は、おもに「冷房期の平均日射熱取得率 (ηA値)」と「外皮平均熱貫流率 (UA値)」の基準をクリアする必要があります。ηA値とUA値は、住宅の所在地によってクリアすべき基準が異なります。
なお、ηA値は「いーたえーち」と読み、日射の入りやすさを表します。外皮や窓ガラスから入り込む日射量を外皮面積で割って算出するので、値が小さいほど住宅に侵入する日射量が少なくなります。つまり、冷房効率が良くなるということです。
UA値は、熱の逃げやすさを表します。住宅内部から外皮を通って外へ逃げる熱量を外皮面積で割って算出するので、値が小さいほど熱が逃げにくくなります。つまり、省エネ性能が高い住宅になるということです。
基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減
ZEHは一次消費エネルギーを「平成25年省エネ基準」より20%削減する必要があります。これを大胆に意訳すると「エネルギーを効率よく使える住宅設備を使ってくださいね」となります。
対象になる設備機器は、空調設備 (冷暖房)、換気設備、照明設備、給湯設備です。住宅に導入されるこれらの設備機器の仕様から、年間の設計一次エネルギー消費量を算出して「基準一次エネルギー消費量」と比較します。
一次エネルギーの消費量削減を達成するには、高効率設備機器だけでは不十分です。HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム、略してヘムス)によるエネルギー使用量の見える化や、自動制御も必要でしょう。
ZEHの種類
じつは、ZEHにはいくつか種類があります。その違いをご紹介しましょう。
寒冷地・低日射地・多雪地帯・狭小地は「年間の一次エネルギー消費量の収支ゼロ」の達成が困難で、ZEHを建てるのに不利です。場合によっては、補助金が受けられないなどの不公平が発生します。
それをなくすために生まれたのが、以下にご紹介する特別なZEHです。まず、これまで説明してきたZEHは以下のとおりです。
▼ZEH
太陽光発電設備の必要性:必要
一次エネルギー消費量削減(太陽光を除く):20%以上
一次エネルギー消費量削減(太陽光を含む):100%以上
つづいて、他のZEHもご紹介しましょう。上述のZEHと比較してください。
▼Nearly ZEH
太陽光発電設備の必要性:必要
一次エネルギー消費量削減(太陽光を除く):20%以上
一次エネルギー消費量削減(太陽光を含む):75%以上100%未満
※おもに寒冷地、低日射地域、多雪地域の住宅
▼ZEH Oriented
太陽光発電設備の必要性:なし
一次エネルギー消費量削減(太陽光を除く):20%以上
一次エネルギー消費量削減(太陽光を含む):なし
※おもに都市部狭小地の二階建て以上の住宅
▼ZEH+
太陽光発電設備の必要性:必要
一次エネルギー消費量削減(太陽光を除く):25%以上
一次エネルギー消費量削減(太陽光を含む):100%以上
※ZEHよりも高性能、かつ創エネの自家消費を強化した住宅
▼Nearly ZEH+
太陽光発電設備の必要性:必要
一次エネルギー消費量削減(太陽光を除く):25%以上
一次エネルギー消費量削減(太陽光を含む):75%以上100%未満
※おもに寒冷地、低日射地域、多雪地域の住宅
※Nearly ZEHよりも高性能、かつ創エネの自家消費を強化した住宅
ZEH(ゼッチ)住宅にするとなにがお得なのか
ここまでZEHについて解説してきました。結局のところ、高性能のZEHを建てるとなにがお得になるのでしょうか?そこを具体的にしていきましょう。
月々の光熱費が安くなる
ZEHにすると、月々の光熱費が安くなります。LED電球やエコジョーズ(高効率給湯器)などの省エネ設備の導入が必須ですので、電気代やガス代の低減が期待できます。
また、高断熱のZEHは家自体の保温能力が高く、少ないエネルギーで室温を一定に保てます。その結果、冷暖房機器の消費エネルギーが少なくなり、光熱費の節約につながります。
売電収入が得られる
太陽光発電でつくった電気を自家消費することで、日々の電気代が抑えられます。さらに、余った電気は売電できるので、収入が得られます。消費電力が低いZEH住宅は余剰電力を生みやすく、一般住宅より多い売電量が期待できます。
医療費の低減が期待できる
ZEHは家中の温度差をなくしやすく、どの部屋も快適な温度にできます。その結果、体へのストレスが減り、一部の病気にかかりにくくなります。ヒートショックも、防ぎやすくなるでしょう。
ちなみに、国土交通省の調査によると、断熱リフォームにより「最高血圧が平均3.5mmHg低下」したそうです。室温18度以下の住宅に住む人は、18度以上の住宅に住む人に比べて以下の傾向があることもわかっています。
- 総コレステロール2.6倍
- 心電図異常所見あり1.9倍
- ヒートショックリスク約1.8倍
不快な住環境が与える健康への悪影響は欧米ではよく知られていて、一部の国では法による規制があるほどです。住宅をZEHにすることで、医療費の低減が期待できます。
資産価値の安定が期待できる
国はZEHを一般化しようとしています。10年、20年後には非ZEH住宅の中古売買価値が下がっているかもしれません。
国は、中古住宅の売買市場の活性化にも積極的に取り組んでいます。なぜなら、現在の日本では住宅が余り気味で、空き家問題が深刻化しているからです。
ZEH住宅や長期優良住宅は、今後、中古住宅の売買市場で有利になるのではないでしょうか。
補助金制度が利用できる
ZEHを建てる際は、国や自治体による補助制度が使えます。ただし条件や予算があるので、いつでも、どんなZEH住宅でも利用できるわけではありません。よく確認しておかないと、募集期間中であっても終了しているケースがあります。
公募方法も、補助金を出している事業ごとに違います。先着順なのか抽選なのか、よく確認しておきましょう。いくつか補助金制度の例をご紹介します。
地域型住宅グリーン化事業
対象:中小工務店などによる木造住宅のZEH、Nearly ZEH
補助額:上限140万円/戸
公募方法:1期は事前枠付与方式、2期は先着方式
小見出し:戸建住宅ZEH化等支援事業
公募期間:2021年5月6日~2021年8月20日
対象:ZEH、Nearly ZEH、ZEH Oriented、ZEH+、Nearly ZEH+
補助額:ZEHは定額60万円/戸、ZEH+は定額105万円/戸
公募方法:先着方式
参考:令和3年度 戸建住宅ZEH化等支援事業 ZEH支援事業 公募情報
次世代ZEH+実証事業
公募期間:2021年5月17日~2021年8月20日
対象:ZEH+、Nearly ZEH+
補助額:定額105万円/戸
公募方法:先着方式
ZEH(ゼッチ)住宅のメリットとデメリット
最後に、ZEHのメリットとデメリットをご紹介して終わりたいと思います。
中見出し:ZEH住宅のメリット(長所)
まずはZEHのメリット(長所)から、3つご紹介します。
省エネ
ZEHはエネルギー効率が高い省エネ設備を導入します。外皮の断熱性能が高く、家自体も省エネです。このような省エネ住宅は、全館空調ととても相性が良くなります。
大がかりな全館空調設備を導入しなくても、エアコンで似た環境をつくることも可能です。家中の温度差が少なくなるので、冬の廊下やトイレ、洗面脱衣室も寒くなくなるでしょう。
快適・健康に暮らせる
高断熱の家は保温能力が高く、短時間の外出なら冷暖房を点けっぱなしにしておくほうが経済的です。比較的少ない光熱費で、夏は涼しく冬は暖かい「快適な生活空間」がつくれます。
高気密・高断熱・計画換気の3つがそろうと、結露やカビの発生も抑えられるでしょう。それらに起因する症状は、改善が期待できます。
レジリエンスが高まる
レジリエンスとは、困難な状況からの「復元力、回復力」を指す言葉です。住宅においては、災害時でもエネルギー的に自立した住宅を指して「レジリエンスが高い」と言います。
ZEHは、台風や地震などの災害に伴う停電時でも、太陽光発電や蓄電池を活用すれば電気が使えます。レジリエンスが高い住宅と言えるでしょう。
ZEH住宅のデメリット(短所、注意点)
つづいて、ZEHのデメリット(短所、注意点)を4つご紹介します。
屋根や間取りの形が制限される
ZEHは、太陽光発電量が多ければ多いほど有利になります。よって、少しでも多くの太陽光パネルを積むべく屋根形状を考えます。
ですから、屋根の形状や流れる方向に制限が生まれ、それが間取りにも影響します。見ためが美しい住宅になるかどうかは、設計士の腕前しだいでしょう。
初期コスト(建築費)が高い
ZEHは、以下の建築資材や住宅設備を使います。
- 性能が高い断熱材
- 断熱性能が高い窓サッシ
- 高効率の住宅設備
- 太陽光発電
いずれも高価ですので、建築費が高くなります。
売電価格の低下が課題
太陽光発電は、冬季(12月~2月)の発電量が減少します。冬季は暖房や給湯設備の使用頻度が上がる時期でもあるので、ほとんどのご家庭でエネルギー収支がマイナスになります。
さらに、固定価格買取制度(FIT)の売電価格は低下傾向で、年々売電によるメリットが少なくなっています。今後はつくった電気の自家消費率を高めなければ、金銭的メリットが出なくなる可能性もあります。
光熱費がゼロになるわけではない
ZEHは、光熱費がゼロになるわけではありません。ゼロになるのは「消費エネルギー」から「つくったエネルギー」を引いた計算結果だけです。ただし、売電により光熱費の収支が黒字になることはあります。
【まとめ】ZEH住宅とは?
ZEHは「Net Zero Energy House (ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略です。どんな住宅なのか大ざっぱに言うと「家で使うエネルギー量 ≦ 家でつくるエネルギー量」かつ「快適な温度環境で過ごせる」家で、これを実現するためには「省エネと創エネが不可欠」です。
ZEH住宅は厳しい認定基準がありますので、建て慣れた建築会社に依頼することをおすすめします。とくに一部の補助金制度を利用する場合は、認定を受けたZEHビルダーに建ててもらう必要がありますので、建築会社を選ぶ際はご注意ください。
ZEH住宅は、国が推進していることもあり、今後のスタンダードになりそうです。これから家づくりをされる方は、ぜひ、ひとつの選択肢として知っておいていただくとよいでしょう。
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